後発医薬品供給問題・薬事規制の現状と展望(2022年12月末現在)
1.後発医薬品の供給問題
相変わらず、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の供給不安が収まる気配がない。12月22日のRISFAXでは、日本薬剤師会の調査として「1年前と比較して約89%の薬局で、供給不足による負担感が悪化した」との資料が、中医協に提出されたと報じられた。薬局での追加業務負担は、一日平均約1時間半に及ぶという。
翌日の日刊薬業でも、新潟大医歯学総合病院の薬剤部長の話として、限定出荷が続いている現状では、担当者1人が付きっきりでオーダー停止に伴う対応を続けていると報じた(厚労省website上部>政策について>審議会・研究会等>中央社会保険医療協議会>同 総会>2022.12.23>資料>資料3-3 でもよく状況が分かる)。
最近、テレビや新聞といった一般媒体でも、後発品供給不安の問題がよく報じられるようになったが(23年度の薬価方針が決着して下火になった?)、12月11日(日)のテレビ朝日のサンデーLIVEでは、企業不祥事・薬価問題などの今までの報道より踏み込み、「製造手順書」という言葉が紹介され、薬局の方が正常化までに2~3年はかかるのではないかと話していた。あれ? 1年くらい前にも、正常化までに2年と言われていたのではなかったか? このペースが続くとすると、法改正で年次報告や米欧に制度としてある一変と軽微の間の”moderate”の区分を作るなどしないと、永遠に問題は収束・解決しないのではないか。
私がいろいろと書いたり、(周囲を含め)話しているとおり、薬機規制の根本から変えないと、この問題は収束・解決しないのではないか?
毎年改正(中間年改正)の2度目となる23年度薬価では、不採算品目約1,000品目の薬価について配慮措置がなされるようである。薬価の対応はもちろん即効性はあり、事業にとって重要ではあるが、また、配慮の幅にもよるが、今の米欧主導のグローバルの規制に沿うような日本の医薬品品質規制にしないと、根本的な対応にはなりにくい。何故なら、様々な面で不安定さを増す世界情勢の中で、日本企業の原薬(最終原薬以外も含めると約7割が外国依存といわれる)調達の環境は厳しさを増し続け、国内などでの製剤製造等も、現在の品質規制の下では、「リスクベース」とは全く両立しない、多分米欧ではどうでもいいようなことに、かなりの労力を民間もレギュレーターも取られているからである。しかし、レギュレーターは食いっぱぐれることはない。深刻なのは民間の、しかも主に中小の製造販売業・製造業である。
この供給不安とその主原因である薬機規制は、医薬品製販業や製造業そして医療機関や薬局といった医療現場に重い負担となっており、役所では主に医政局医薬産業振興・医療情報企画課にかなりの負荷がかかっている。企業における不祥事が続発したからといって、また続発しているからこそ、関係者は「忖度(本当に嫌な言葉である)」を止め、関係企業は自らの足元を正すとともに、規制のまずい、不十分な点があれば、遠慮なく、それを指摘・提案すべきである。ところが、業界でこのような意識を持っている方々も、一様に「できない」と言う。そこで、元レギュレーターの私が、いろいろと情報発信をしている。
ここまで後発医薬品の供給に乱れが続いているからには、一部企業のPracticeとともに、基礎的・本質的な面で「まずいシステム」になっていることに疑いはない。薬機法規制以外の分野については医政局の検討会の内外で、喧々諤々の議論が繰り広げられるなどしているが、年末の中医協答申の付帯意見でも、今後、医政局検討会の議論も踏まえながら、十分かつ早期の検討が要望されている(3.で再び触れる)。
やはり、薬機規制は全く、厚労行政の中では触れられていないのだ。この今後の医薬品行政に与える影響は俄かには測りがたいが、良くないことであることは確かだろう。行政の透明性がないからである。
2.後発医薬品規制の展望
さて、前置きが長くなってしまったが、「後発医薬品規制の展望」は暗いと言わざるを得ない。先日、大学主催のセミナーでレギュレーター中堅幹部に、去る4月に吉田 易範本省医薬局医薬審査管理課長が発言した、承認書の製造方法欄の記載合理化の検討につき、研究班の進捗を伺ったが、 やはり難しい問題との認識のようで、製造実態(製造方法)の記載の簡略化の検討は時間がかかるとのことであった。2005年の承認書絶対主義(今も基本は変わらない)時代に、何とか「規格及び試験方法」とは異なり動的な製造方法欄について「目標値/ 設定値」という米欧にはないと思われる概念を取り入れることで、承認書違反の状態を回避しようとした。このように『精緻』に作られた2005年2月10日通知や同年3月23日の研究班名による解説に手を入れ、記載を簡略化することが容易ではないことは、業界の期待とは裏腹に、理解できるであろう。なお、承認書絶対主義の一例として、最近若干(使いにくい)例外もできたようだが、米欧と異なり、承認書の「規格及び試験方法」欄や「製造方法欄」の一変後は、一変前の承認書は一変後の承認書と同等であるにも関わらず、承認書が変わり、その承認書に合っていないという理由だけで、一変前の承認書に基づいて製造された製品は市場にあってはならないという、およそ時代や科学とかけ離れた規制が生きている国なのである。
その中で、一つ私が参考になるのではないかと思うのは、2022年11月2日のPMDA品質管理部主催の第1回GMPラウンドテーブル(これ自身は意欲的な良い取り組みで、PMDAプロパーの今後に期待を持たせるものと思う)で、ジェネリック医薬品等審査部の職員が講演された「審査の観点から見た承認申請書」という中での、「従来のアプローチだけでは保守的な薬事対応となり、ライフサイクル全体から見ると負担が増大する可能性大」とか「少なくともリスク評価した上での管理戦略の検討が必要な時期には来ているのでは」との記載である。ただ、全体はやはり、米欧と比べるとtoo conservative(慎重過ぎる)と思われるので、ジェネリック医薬品等審査部のリソースにはあまり余裕がないようであるが、是非、米欧の実際の変更管理のpractice, 考え方を習い、研究し、それに合わせて欲しい。
回収の考え方の検討に3年も費やし、何を検討するかよく分からないし、地方庁のGMP査察体制についても、PMDA 品質管理部にGMP教育支援課ができたのは(また国際組織であるPIC/Sの執行部に参加しているのも)一歩前進としても、やはり47都道府県に査察権者が分かれ、しかも技術系職員やそれに助言などする地方庁の研究機関も弱体化が進んでおり、大幅な能力・機能強化はなかなか難しそうである。日本として、欧(や米)の水準に追いつくのは現状ではなかなか容易なことではない。
3.まとめ
本問題に関して『本省医薬局の顔』がなかなか見えない中、PMDAジェネリック医薬品等審査部のリソースの振り向け方や地方庁のGMP査察の集約化についても、大きな動きは見えない。
1.に記したように、後発医薬品の供給不安の問題はかなり大きな問題となっている。中医協での診療報酬の2023年12月までの時限措置との中身もその考え方もよく分からないが、付帯意見で厚労大臣に対して、『安定供給問題への対応を調査・検証し、課題が見えたら速やかに報告し、対応を検討すること。安定供給問題を根本的に解決するため、医政局の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の議論も踏まえつつ、十分かつ早期の検討も要望』とされている。
付帯意見は勿論、官僚の作文ではあるが、調剤報酬改定資料の中で「保険薬局が地域の医療機関・薬局と連携」を謳っているものの、この診療・調剤報酬改定は、総じて現在医療機関・薬局で苦労して行われていることに、「お疲れ様です」という趣旨で点数をつけたように見える。医薬局マター(薬機法マター)以外では、薬価の不採算品目への配慮に続き、個々の後発品製造販売業者の品目・規格ごとの供給情報の更なる円滑な収集・公表以外には、ハードルは高そうだが、医薬品の有効性・安全性評価に基づく薬価収載品目の大胆な整理(2003年の初期老人性白内障治療薬ピレノキシンに関する騒動を思い出すが)程度しか思いつかない(仮に、薬価制度の抜本的な改革が万一、2024年度以降に実施されたとしても、米欧基準の世界的な薬事変更管理practiceや考え方から遠い、また、承認書に過度に拘る薬機規制を続けていては、やはり日本の後発品製販・製造業者は、ずーっと苦しむことになるであろう)。
中医協付帯意見の中身を忘れずに、2023年の医政局の検討とそれ以上に、医薬局・PMDAの動きを追っていきたい。
コメント
コメントを投稿