日本の薬事規制の現在と将来-その様々な影響について考える(1)
2026年2月24日付けの「国際医薬品情報」(No.1292)に6ページにわたって(p16~21)厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)の佐藤大作氏の特別インタビューが掲載された。標題は「優先審査品目の拡充に向けては審査体制の強化が必要」である。ご興味のある方には、是非読まれることをお勧めしたい。私は歴代の薬系技官トップのこのような長いインタビューは、寡聞にして知らない。
1.その中でまず、標題にある「審査体制の強化」を取り上げたい。
インタビュアーが、米国FDAのマーティ・マカティー長官とCBERのヴィネイ・プラサドセンター長(当時) が25年11月にNEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌)に出した論文を引き、FDAが遺伝子編集等について新しい承認制度のあり方を検討している変化について審議官に聞いている。審議官はそれに対し、「科学の進歩に合わせて審査のあり方も変えていくべき」と積極的に評価している。次いで審議官は「高市政権でのバイオ系の成長戦略においても審査のスピード化が求められる」としつつ、日本では先駆的審査指定制度や抗がん剤のほとんどといった優先審査の品目が海外に比べると少なく、 PMDAの審査体制に余力がないとしている。
更にインタビュアーが「審査体制の体力をつける」方策について問うと、審議官は「それが難しい」とし、「薬害の歴史もあり、民間人材の登用には慎重にならざるを得ない面もある」と答え、「PMDAの20年の歴史に触れながら、簡単な話ではない」としている。この話題は、審議官が「スキルを持った人材の流動性の重要性」を指摘して終わっている。
そもそもFDA長官等がNEJMに投稿した提案と日本の審査能力の強化は、同じ水準で議論されたものではないことには注意が必要だが、以前から当局者から聞いていた「日本には薬害の歴史があるから特別」という言葉は、そろそろ止めにした方がよくはないだろうか。
私は、(一財)医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団時代に、当時の故土井 脩理事長の下で多くの薬害教育研修を聴講し、講演等をお願いした関係者の人達にもそれなりにお付き合いをした。私の意見は、PMDAの審査体制の体力をつけるために、民間から、特に製薬企業で一定の経験を積んだ人達をPMDAに招くことには、薬害関係者の人達にはそれ程の抵抗感は最早ないのではないかというものである。
もちろん、採用なり招聘なりする人達のポジションや権限にもよるが、PMDAの審査はチーム審査であり、また米欧とは異なり、PMDAの次に権限的には上位にある厚生労働省医薬局が控えている。薬価の問題はあるが、ドラッグロスやラグの解消に大きな力となると考えられる「審査体制の強化」のためには、関係規程の更なる整備などは必要かも知れないが、民間人材の登用は積極的に進めるべきであろう。23年7月から翌年3月まで続いた「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」においても、日本製薬工業協会の代表として出席していた武田薬品の粕谷 祐司氏から「人材の面でも業界として協力できることがある」との発言があったと記憶している。
民間人材登用を勧めるもう一つの理由は、審議官の言葉を前提にすると、ではいつ頃に審査体制の強化の道筋が見えて来るのかといったことが全く見えないことである。また、現在高市政権肝煎で行われている日本成長戦略会議の創薬・先端医療WGの4月6日会議の報道を見ても(日経バイオOL)、現在生じているドラッグ・ラグ・ロスへの対応は見えないし、今後更に拡大すると考えられるそれらへの対応策についても、「臨床試験の実施体制の総合的な対応、薬事相談体制の強化などを進める」と切り札的なものは見えない。
いつまでこの問題に対して今までのような対応を取り続けられるかはわからないが、これらの解消や改善の実が上がらないと、製薬会社幹部が以前言ったと報じられた、「既に生じたドラッグロス品目で、FDAやEMAが審査し承認したものは日本で『仮承認』し、その後日本人のデータを集積して有効性が検証できれば『本承認』するとの仕組み」の導入が現実味を帯びてくるだろう。
審議官も触れているPMDA創立から20年を2年過ぎた今も、わかり過ぎている問題への対処・解決を求める声が一向に出ないことに、日本が抱える諸課題解決への道が全く見えない現状の「閉塞感以上の閉塞感」を感じるのは私だけではない。
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