日本の医薬品セクターを取り巻く「出口の見えなさ」 -新薬業界の構造改革が必須ではないか-
1.政府・自民党・業界の最近の動き
橋本 岳議員が座長を務める自民党社会保障制度調査会の「創薬力の強化育成等に関するプロジェクトチーム」が会合を持ち、政府の日本成長戦略会議による「官民投資ロードマップ」策定を念頭に、創薬分野の成長戦略に関する決議案の大筋を了承したと業界誌で報じられている。
バイオ製造拠点の整備や各種人材の育成などのほかに、明確に政府の求めるテーマには入っていないようであるが、問題の大きな「本丸」である「薬価制度問題」については、「費用対効果評価制度などの見直しを含めて特許期間中の薬価維持」を提言したと報じられている。
しかし、4月20日に報じられたPhRMAの五十嵐啓朗在日執行委員会委員長(ファイザー株式会社社長)の「世界の中で日本の新薬への研究開発投資が大きく低い」「トランプ大統領のMFN(最恵国待遇)政策の影響で、ドラッグロス/ ラグの悪化につながる」との発言も危機感を募らせるし、「経済成長と国民皆保険制度の持続に必要な具体的な制度改革について議論を行う」薬価制度のパラダイム転換を求めている。
医薬品セクターの中ではこれらの懸念・危機感は良く知られたものであろうが、また自民党のいわゆる厚労族の議員達の認識や懸念も大きくは異ならないと考えられるが、問題は政府全体の認識・方針である。
2.政府の方針と経済安全保障
21年の菅 義偉内閣下で始まった中間年改定や特許期間中の薬価改定(=薬価引き下げ)の廃止は今までも強く求められてきたが、実現していない。
政府の国会での説明などが変更され、前者が廃止されれば、もちろん医薬品セクターにとって大きな福音にはなるだろうが、ではそれが、政府や自民党から時々発される新薬業界の「構造改革」に結びつくかははなはだ疑問である。後者についても、特に財務省は、日本は保険収載の関門は世界一緩いのだから、特許期間中と言えども薬価の引き下げは当然と思っているかも知れない。「医薬経済」5月1日号に載った手代木 功 塩野義製薬代表取締役会長兼社長CEOのインタビューの最後にも「なんでもかんでも医療用医薬品が処方され、3割負担で本当に国が持つのだろうか。それなりにセルフメディケーションを位置づけたほうがいのではないかと思う。」とある。正論である。
4月6日の仏の情報サイト「クーリエ」日本語版に、英国エコノミストほかからとして「中国習近平政権は、米国との貿易戦争においてレアアースを切り札として対抗した。習はすでに次のカードを準備している。重要な医薬品の原料や一部の半導体などだ」とあった。今までは「人命直結のカードだから」と思っていたが、改めて目にすると大いに不吉なものである。
高市内閣、あるいは昨今の歴史的な世界秩序の転換点という観点に立てば、その後も、医薬品セクターの政策では「経済安全保障(安定供給)」や昨今の日本の大規模な創薬力の低下に伴う「ドラッグ・ロス/ ラグ対策」がメインになってしまうおそれがある。
3.創薬力強化
創薬力強化については、世界に知られるベンチャー・エコシステム構築とか大規模な投資が必要などと謳われてはいるが、バイオ創薬で中国が世界一の米国をかなりの勢いで脅かし、バイオ生産では韓国も大きな地位を固めている。日本では、今までの施策の検証が必要ではないか。
3月26日のRISFAXで、日本のバイオベンチャーであるジェイファーマが東証グロース市場に上場したことが報じられたが(主要パイプラインは自社創製品のL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)阻害剤「ナンブランラト」)、同社社長の吉武益広氏(元 大塚製薬専務執行役員)は「多くの投資家と話すなかで『日本のバイオベンチャーは(投資対象として)信じられない』とみなされていることを痛感した」とある。同氏はそれを覆したいと話している。
この3月にiPS細胞由来の2製品が薬機法の「期限付き条件付き承認」を得たと、上野厚労相自らが語っていたが、日本のバイオベンチャーの評価は上のようとも言えるし、一方の住友ファーマも主戦場は米国と見做している(5月13日に約5,500万円との薬価がついたが、企業によるピーク時の市場規模予測は、収載10年目に74億円(133人)に止まる)。細胞治療製品の医療における本格的な活用のためには、できたとしてもまだ何年もかかりそうだし(またAffordability=支払い能力からすると、私的医療保険を十分に活用できる人たちに限られる可能性も十分にあるのではないだろうか)、科学技術的な課題解決のためには大規模な投資が必要そうであるが、それは果たして可能か。
4.悪い予感
先の五十嵐PhRMA在日執行委員会委員長の弁の中に、「日本にとって今は危機だが、機会でもある」との件があった。「危機」との認識には大賛成であるが、当局や自民党からはメインの声として「危機」は聞こえない。先の自民党PTの報道の中に多くの議員の声として「保険財政が持続をしたとしても、医薬品が手に入らないということになれば、国民皆保険の在り方として本末転倒であり、危機感を持つべきだ」(26.4.21, ミクスOL)があったとあるが、PTの提言/ 決議に「危機」との文言が入り、官邸や厚労相に提出されればやや別だが、それもなく、厚労省に提出されたのみである。そうなら「ガス抜き」という言葉がピッタリと当て嵌まってしまう。
少し前の報道で、厚労省の産情課長さんが製薬企業等を行脚し、薬機法改正で設けられた「創薬基金」(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所に) への任意寄附を求めているとあったが、そんな場合かというのが正直な気持ちであり、正にこれこそ「危機」だと思うが、如何であろうか。
また「人材流出」との報道があった(26.4.21, RISFAX)。労働組合のアンケートではあるが(経営側からも出て来たら手遅れだろうが)、「昨今の優秀な社員は外資に転職していく」などだ。大手のジェネリック企業でも「希望の持てない業界」ということで若手社員が辞めたと聞いた(ジェネ協川俣会長の最近の話の中でも、21~24年の後発品業界の成長率(金額ベース)が僅か0.5%とあった。財務省は胸を張っているだろう)。
医薬品セクターの外圧頼みと言うと、古いが1985年に始まったMOSS協議がある。日本市場は米国から大きな圧力を誘発するほど最早大きくないとはよく聞く話である(現在の世界市場に占める割合は僅か4%)が、最近のトランプ大統領のMFN政策に関しては、日本は世界でも最も低薬価の先進国として、また他の米国以外のG7国の一角として米の医薬品価格に影響する可能性があるとして、「外圧頼み」の雰囲気が出て来ている。
日本は「現状維持をしたがる社会」とは、最近見た旧統一教会問題で知られている櫻井 義秀北大教授の弁であるが、「自ら変えようとする動きはあまり見られない」と続く。
4月24日の日経バイオOLに「欧州から変わるドラッグラグ・ロスの構図──承認からアクセスまで、分岐する創薬戦略」 と題して、世界の投資家の視点が承認の速さよりも、上市とその後の市場展開、すなわち欧州での薬価収載なり、米国の場合そうでなくとも、市場において程度のリターンが見込めるかといったことに重点を置きつつあるとの論考があった。日本の場合、承認後の薬価収載の不確実性、類似薬比較方式の場合も大型薬の場合の再算定など未だに評価が低く、グローバルでの上市戦略に日本が入らない(トランプ大統領のMFN政策にはここでは触れていない)状況ができつつあるとの指摘があった。
ただ、薬価政策は厚労省保険局・医政局よりも財務省がその鍵を握っている。「新薬業界の構造改革なしの薬価制度の抜本的な改革」は難しいのかも知れない。
4月27日の日経バイオOLには、先にあげた五十嵐氏のインタビューがあり、少し長いが引用すると、「グローバルな業界で重要なのは、欧米を中心に確立されたビジネスとサイエンスのコミュニティーに、日本がしっかりと入っていく、逆に欧米のビジネスとサイエンスのコミュニティーが日本に注目し、人材交流や投資活動を行っていくという関係性を構築すること」「日本の医師と世界中の科学者との間で交流が生まれ、人材が育ちます。それがいわゆるエコシステム(生態系)となって、研究を強く推進できるし・・・」(残念ながら薬剤師は出て来ない)とある。「パラダイム変換」が力説される所以である。
5.まともな薬事規制を
別のBLOGで書くが、最近の薬事規制を見ると、トランプ大統領がよく反対派などから言われるが、「正常な判断能力を失っているように見える。」
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